StitchPress
← 記事一覧

枠にとらわれない、編み目の話

2026-09-22 公開

StitchPress は、ちょっとしたモヤモヤから生まれました。多くの編み図ツールは、編み目記号をただのイラストとして扱っていて、記号が本来持っている意味がどこかへ行ってしまうんです。長編みは、ただの絵ではありません。ちゃんと比率があって、どの段の目なのかも決まっている。エディターの中でも、そういうふうに振る舞ってほしいんです。

StitchPress はいま絶賛開発中で、毎週のように新機能やバグ修正を出しています。とはいえ、編み物好きのみなさんに広く使ってもらうには、もう少しだけ準備が必要です。それでも「これはいいぞ」と思っている機能を、ひと足先にお見せしたくなりました。

機能紹介の記念すべき第1弾、テーマは「編み目」そのものです。

バウンディングボックスのもどかしさ

かぎ針編みのデザイナーさんの多くは、Adobe Illustrator で編み図を描いています。なんでもできる頼もしいツールですが、編み図のために作られたわけではありません。ほかの編み図ツールも多かれ少なかれ Illustrator の影響を受けていて、だいたいどれにも「バウンディングボックス(変形用の枠)」があります。

Illustrator や Inkscape のようなベクター描画ソフトなら、バウンディングボックスは理にかなった仕組みです。でも編み図となると、ちょっと勝手が違います。Stitchworks を使ったことがある方なら、編み目をクリックすると点線の四角が出てきて、何をするにもその四角が基準になる……という感覚に覚えがあるはず。編み目ではなく、バウンディングボックスを動かしている感じですよね。Stitch Fiddle(フリーフォームのかぎ針編みエディター)や Crochet Chart のような新しめのツールでも、事情は同じです。

トップとベース

そこで StitchPress では、いったん立ち止まって「枠にとらわれずに」考えてみました(はい、狙って言っています)。編み目は、ドラッグで動かすだけの画像ではなく、一目一目に意味があります。たとえば長編みの記号なら、足元は前の段の「どこに編み入れたか」を指しているはずですし、頭の横線があるてっぺんは、次の段が編み入れられる場所です。

そう考えてたどり着いたのが、「トップとベース」という仕組みです。汎用のバウンディングボックスの代わりに、どの編み目もトップとベースに分けて扱います(ひとつの目にトップやベースが複数あることも)。こんな感じです:

StitchPress のエディターに置いた長編み。上のハンドルがトップ(次の段を編み入れるところ)、下のハンドルがベース(前の段に編み入れるところ)

ハンドルは、トップとベースの上に直接ついています。位置を変えたいときは、ハンドルをつかんで置きたいところまでドラッグするだけ。バウンディングボックスを回しながら「回転の中心ってどこ?」と悩む必要はもうありません。長さの調整も同じです。バウンディングボックスだと、拡大縮小と回転を別々にいじっているうちに、片方を合わせるともう片方がずれる……なんてこと、ありませんか?

長編みのトップ、続いてベースをドラッグすると、ハンドルの動きに合わせて編み目が傾いたり伸びたりする様子

それでもバウンディングボックスが便利なときもある

StitchPress のかぎ針編みの編み目は、どれもトップとベースでできています。とはいえ、バウンディングボックスが役に立つ場面もちゃんとあります。たとえば鎖編み。回転させても大きさが変わらないことが大事で、そうでないと思わぬ形に崩れてしまいます。なので鎖編みは、中身こそトップとベースですが、編集はバウンディングボックスで行います。

選択した鎖編み。四隅のハンドルと回転用のハンドルがついたバウンディングボックスで囲まれている

トップとベースだからできること

編み目をトップとベースで組み立てると、ほかにもうれしいことがあります。

  1. 足の長さを一本ずつ変えられる。 増し目や減らし目を1枚の画像で描こうとすると、それぞれの足を実際に編み入れる位置に合わせるのがひと苦労です。足の長さは固定なので、1本を伸ばすとほかの足まで一緒に伸びてしまいます。StitchPress の増し目(ベースが1つ、トップが複数)はトップを1つずつ別々に持っているので、ほかのトップに影響せず、それぞれ好きな位置に置けます。

    長編みの増し目。1つのベースから長さの違う2本の足が伸びている

  2. 目数はその場で決まる。 長編み2目の増し目も3目の増し目も、あらかじめ専用の「絵」を用意しなくても、その場で描けます。正直に言うと、これは作っている私たちのほうがうれしいポイントかもしれません ;) 記号をデザインし直さなくても、ある程度の目数までなら増し目・減らし目に対応できるんです。

    左から、長編み2目・3目・4目の増し目と、長編み2目一度・3目一度。どれも同じ編み目の定義から描かれている

  3. 見た目も自分好みに(予定)。 編み目を描くのに必要なのは、トップとベースの位置だけ。だから記号のデザインは自由に変えられます。たとえば手描き風のスタイルを一度決めておけば、増し目や減らし目にもそのまま反映される、といった具合です。編み図にもっと「その人らしさ」を出せるよう、今後の機能として準備しています。

この仕組みを活かした機能が、実はもう StitchPress に入っています。それが「ガイドの接線に追従」。頭に横線のある編み目(長編みなど)のトップをガイドにスナップさせたとき、その横線をガイドの接線に沿わせるかどうかを切り替えられます。動かしてみると、こんな感じです:

長編みのトップを曲線のガイドに付けたり離したりする様子。スナップ中は頭の横線がカーブに沿って傾き、離すと足に対して直角に戻る

第1弾はここまで!次回は、StitchPress が「ガイド」を使って編み目をどう整えているのかをご紹介します。どうぞお楽しみに。

StitchPress は現在プレアルファ版です。いっしょに使い心地を作り上げてくださる、かぎ針編みの編み図デザイナーさんを募集しています。興味はあるけれど、まだ私たちから連絡が届いていないという方は、contact@kinnet.studio までメールをお寄せください。アルファ版・ベータ版のテストの様子を追いかけたい方は、ウェイトリストへどうぞ。

ウェイトリストに登録